菌をきちんと編 #037

「運動」が腸内細菌を育てる

 

腸内細菌を育てる方法といえば、発酵食品や食物繊維などの食事が基本と思われがちです。だからこそ、「運動」も腸内環境に良い効果があると聞くと、意外に思う方は多いのではないでしょうか?

 

最近の研究により、腸内細菌と運動の関係性が明らかになってきています。

また、逆に乳酸菌の摂取などで菌をケアすることが、運動パフォーマンスや効率を向上させることも分かってきています。つまり、菌をケアすることと運動は双方向にプラスになってくれるというわけです。

 

この記事では「運動」と腸内細菌の関係について掘り下げていきます。運動を取り入れることで、もっと効果的な菌ケアを始めてみませんか?毎日の菌ケアの効果を高めるためにも、ぜひ参考にしてください。

 

 

目次
  • 適度な運動が健やかな腸内細菌を作る
  • 運動には便秘改善効果も
  • 乳酸菌が運動能力を高める
  • 目安は週に75分

 

適度な運動が健やかな腸内細菌を作る

 気持ちが良いと感じる程度の運動は体にリラックス感を与えて、自律神経にも良い影響を与えます。腸は自律神経に支配されている臓器であるため、腸にとっても運動は良い影響をもたらします。

 

しかし、逆にアスリートのように運動により強いストレスや緊張を伴う人では、下痢や腹痛などのお腹のトラブルを抱えることも多くあります。運動と腸内環境は一見関係がないように見えて、実は私たちにさまざまな影響を与えているのです。

 

 

アスリートの腸内細菌は多様性がある?

運動と腸内細菌は自律神経で繋がっているだけではなく、非常に複雑な仕組みでお互いに影響し合っています。

 

例えば、運動が腸内細菌に与える影響について次のような研究があります。

2014年にアイルランドで行われた研究報告によると、エリートラグビー選手とそうではない一般の健常人について、腸内細菌の多様性に違いがあることがわかりました。

 

【結果】

・アスリート群では22網の腸内細菌が検出されたのに対して、 対照群:低BMI群 11網, 高BMI群 9網と種類が少なかった

・腸内細菌の分布を詳細に解析した結果、アスリート群では普通の人よりも有意に善玉菌の菌数の割合が高くなっていた。

・アスリート群は筋肉損傷のマーカーであるCK(クレアチニンキナーゼ)は高値であるが炎症生サイトカインは抑えられていた。

 

腸内細菌は多様性がある方が理想的だとされています。つまり、普通の生活を送っている人と比べて運動をライフワークとしている選手の方が、腸内細菌に多様性がある=良いバランスが保てていると言えます。

 

 

アスリートは痩せ菌が、 運動しない人はデブ菌が多い

同じ研究で注目すべき点として、ラグビー選手では有意にバクテロイデス門の菌が少ないことも分かりました。このバクテロイデス門は「痩せ菌」とも呼ばれ、痩せやすい体質の人に多いと言われている菌です。

 

特に2型糖尿病肥満や肥満を抑制する作用があるといわれるアッカーマンシア・ムシニフィラという腸内細菌がラグビー選手には多いことも判明しました。

菌のバランスと多様性と運動の結びつきがいかに強いかが分かりますね。

 

 

アスリートにおける菌の多様性と食事の関係

では、運動は腸内細菌に対してどのように影響し、多様性をもたらしてくれるのでしょうか?

 

明確な理由はまだ明らかではありませんが、アスリートでは強度な運動を日常的に行うことによる身体的な影響に加えて、特有のカロリー摂取やタンパク質摂取、食物繊維や炭水化物の摂取量などが関わっているのではないかと考えられています。

 

アスリートと一般の人では食事の内容が大きくことなります。とくに「糖質」「食物繊維」 の摂取量は菌の多様性に関係することは以前から知られています。

 

ある研究によれば、アスリートの腸内細菌の多様性については、タンパク質の消費が微生物の多様性と正の相関関係にあると考えられています。アスリート群において食物繊維1日あたり25g以上と非常に多い量を摂取した方が腸内細菌の多様性において良い結果が得られていたのです。

 

また、運動の内容とその食事内容により、腸内細菌の多様性に違いがあることも明らかになっています。

低炭水化物・低食物繊維の食事を摂ることが多い持久系アスリートでは、高タンパク食が腸内細菌叢の多様性に悪影響をもたらす可能性が示唆されています。

 

一方で、プロテインなどの高蛋白・低炭水化物の食事を摂ることが多い筋力系アスリート(ボディビルダーなど)では、短鎖脂肪酸産生細菌の減少などのデメリットも指摘されています。

 

 

運動には便秘改善の効果も

便秘やお腹のハリなど、お腹の不快な症状に悩んでいるという方にとっても、運動はとても大切です。

例えば、ヒトにおける研究で軽い運動によって食物の消化管の通過時間が短くなるという報告があります。

 

毎日11万歩以上の歩行を2週間続けた後の消化管通過時間を比較したところ、小腸における通過時間はあまり変わりませんでしたが、大腸の通過時間は8時間も短縮されたのだそうです。

 

大腸の通過時間が短くなるということは、運動により便の滞留を防げる、ということです。あれこれと便秘対策を行っているけれど、なかなか改善しない…という方は、もしかしたら運動が切り札になってくれるかもしれません。

 

 

目安は週に75分

ここまでのお話は運動が腸内環境に与える良い影響についてでしたが、今度は逆に乳酸菌の摂取が運動に与える影響について深堀していきます。

 

運動パフォーマンスとプロバイオティクス

運動→腸内環境というベクトルとは逆に、腸内環境を整える→運動パフォーマンス向上にも繋がることも分かってきています。最近ではスポーツ選手のコンディショニングにおいても、腸内環境が非常にホットな話題になっているようです。

マウスを使った研究ではラクトバチルス・プランタルム(乳酸菌)を6週間摂取すると、運動能力の向上、筋肉量の増加、さらに抗疲労効果も得られたという結果が報告されています。

 

乳酸菌が乳酸を酪酸に変える経路で、運動中のエネルギー生産を促す物質が増えるためと報告している研究結果も出ています。

 ヒトにおける研究結果は今後の展開が期待されますが、乳酸菌は運動を習慣にしている人とっても良い結果をもたらしてくれることでしょう。

 

 

乳酸菌は疲労回復にも効果がある

乳酸菌の摂取は運動によるエネルギー産生や疲労回復を促す効果があることが、さまざまな研究により明らかになっています。 

例えば、乳酸菌をラットに6週間与えた実験では、乳酸菌の摂取量を増やすことにより筋肉量が増加するという結果が得られています。

 

この理由としては、乳酸から酪酸を乳酸菌が作る過程で運動エネルギーを効率的に使うために必要な「アデノシン三リン酸」という物質を生成していることが関係していると考えられています。 

 

ラットを用いた別の実験では運動による筋肉疲労の指標である乳酸、アンモニア、クレアチンキナーゼの値を低下させることが明らかになっています。乳酸菌には疲労回復を促す効果があることを示唆しています。 

 

 

過度な運動はリーキーガットの原因に

 運動が腸内細菌を整える上でとても意味があることが分かったところで、具体的にどのくらいの運動を行えば良いのでしょう?菌ケアの効果を高める運動のポイントと注意点についても紹介します。

 

 

 

菌ケア効果を高めるための運動は、適度な時間、適度な強度であることがポイントです。オーバーワークとなるような運動は逆に負担となってしまうこともあるからです。

 

しかし「適度な運動」と言っても、どれくらいが「適度」となるのでしょうか。

WHO(世界保健機関)によると健康を保つための運動として、汗をかく運動であれば週に75分、ウォーキングであれば週に150分が適切とされています。

 

また、運動というと少しハードルが高いと感じるかもしれませんが、日常生活に溶け込むような形で取り入れると無理なく続けられます。

 

例えば、ウォーキングは腸内細菌に良い効果を与えることが分かっています。

 米コロラド大学の研究報告によれば、人生の早い段階でウォーキングなどの運動習慣を取り入れると、腸内フローラの健康的な状態をより維持することができ、その後の人生おいても脳を長く健全に保ち、代謝的活性を促進する可能性があると考えられています。

 

ウォーキングは腸内環境はもちろん、生活習慣病の予防やダイエット、美容にも良いのでぜひチャレンジしてみてください。

1日あたり20分から30分程度を目安に、呼吸を意識しながらリラックスして行うことがポイントです。

 

今回は運動と腸内細菌についてお話してきました。運動は腸に良いということが、もっと具体的に理解できたのではないでしょうか?

 

運動は菌に多様性をもたらしてくれます。また運動と食事の両軸で取り組むことにより、より効率よく菌の多様性を高めることができます。肥満防止や健康のためにも、運動を取り入れることは非常に有効な菌ケアのアプローチの一つです。

 

食事や生活習慣による菌ケアも大切ですが、運動も取り入れて菌ケア効果をさらに高めていきたいですね。ここで大切なことはストレスにならない程度に運動を取り入れることです。ご自身のペースで、少しずつ取り入れてみてくださいね。

 

 

【参考文献】 

1. Vincenzo Monda. Oxidative Medicine and Cellular Longevity, 2017, ID 3831972, 8

2. Joy Son, Nutrients. 2020 Oct; 12(10): 2947.

3. Yi-Ming Chen. Nutrients. 2016 Apr 7;8(4):205. doi: 10.3390

4. Agnieszka Mika.  Immunology and Cell Biology, 2015; DOI: 10.1038

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